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2009年5月20日

インターネット調査の不完全性

内閣府のサイトに、インターネット調査と訪問面接聴取による世論調査の結果を比較しているレポートが掲載されています。主旨は、世論調査手法(訪問面接聴取法)の改善です。

調査名更新日
世論調査におけるインターネット調査の活用可能性
~国民生活に関する意識について~(平成20年6月)
概要報告書2009/05/01

結論からいうと、ネット調査の回答は、現状の世論調査と差異があり、「現時点で世論調査が直ちにネット調査に置き換えられる可能性はほぼない。」とのことです。

その理由として、下記の3項目があげられています。

① 世論調査ではネット不利用者(少なくない)を含んでいる
② 訪問調査とネットでの回答方法の差異
③ 世論調査は住民基本台帳から無作為抽出、ネット調査は公募型のモニターからの選定

但し、ネット調査の可能性を全面的に否定しているわけでなく、設問によっては差異がないものもあります。興味のある方は、読んでみてください。

面白かったのは、下記にあるようにネット調査の回答者は、生活に満足も充実もしていないと回答が多いということです。不満多きネット住民は、カタルシスのためにネットで誹謗中傷を繰り返すのでしょうか。

※ 下記グラフは、上記のレポートから「わからない」「どちらともいえない」を除いて作成しています。

ネット調査の問題点については、大隅 昇(統計数理研究所 名誉教授)氏が、私の参加した統数研の公開セミナーやWord Minerのセミナーでも指摘していました。

ネット調査の問題点:

a)モニターの代表制の問題
ネット調査では、カヴァレッジ誤差と標本誤差の2つが大きな問題となります。統計学とは、標本から母集団を推測するものです。世論調査でいえば、母集団は、国民全員となります。そこから標本抽出をするために住民基本台帳を利用します。しかし、台帳に載っていない人もいます。これがカバレッジ誤差です。また標本誤差とは、住民基本台帳の一部しか利用していない場合などに発生する誤差です。

ネット調査で考えた場合、公募型のモニターの場合、ネット利用者全体の代表になっているわけではありません。ましてや国民全体の代表になり得るわけがないということです。そんなリストからスクリーニングしても意味はありません。

b)不正回答(虚偽、代理)の混入

ネット調査の場合、モニタ登録をしている本人が回答しているかどうか特定できません。勿論、対面式ではなく、郵送による回答などでも特定は不可能です。またモニター登録者が謝礼目的の場合は、複数のリサーチ会社に登録して、多くのアンケートに短時間で回答しようとします。

大隅先生の文献は、下記から参照可能なので、こちらも読んでみてください。

WordMiner TM研究会:文献リスト
大隅昇(2008):これからの社会調査―インターネット調査の可能性と課題―

ここまでの流れでいえば、ネットで世論調査をするためには、非公募型のパネルを作り、PCリテラシーの問題を克服しなければならないということになります。少なくともネットの代表制を保つためにも、非公募型のパネルは必要であると思います。

一方、一般企業が市場調査を実施する場合には、ネット調査が多く採用されています。その背景には、コストと期間の問題があります。ネット調査は、安価でお手軽というメリットだけを捉えずに、ネット調査の問題点を把握して、リサーチ内容と報告の解釈をする必要があります。

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